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2003年 1号

Seminar
−IGES/GISPRI共催−
国連気候変動枠組条約 ポストCOP8セミナー開催報告
(第44回 地球環境問題懇談会)

セミナー概要

 2002年10月23日〜11月1日にかけてインド・ニューデリーにいて国連気候変動枠組条約第8回締約国会合(COP8)が開催されたのを受けて、11月28日(木)東海大学校友会館において標記セミナーを開催した。2001年のCOP7で京都議定書の運用則がほぼ決定する一方、議定書発効前ということでCOP8に対するメディアの取扱いは小さかったが、ポスト京都枠組の第一歩ともいえる「デリー閣僚宣言」採択、CDM理事会関連事項、CDM吸収源活動の議論等の注目点もあり、一般企業を始め商社、金融、コンサルタント、研究者など250人以上が会場に詰め掛けた。

  今回のセミナーではCOP8で日本政府代表として直接交渉にあたられたご担当者を講師としてお招きし、交渉経緯や決定事項のご報告及び会場からの質問票へのご回答をいただいたほか、Climate Experts代表でありGISPRI/IGES客員研究員である松尾直樹氏より研究者から見たCOP8報告を行った。今回は林野庁からもセミナーにご参加を頂き、従来のポストCOPセミナーにも増して総括的なCOP8報告を実施することができた。以下にご講演内容及び質疑応答内容を報告する。



ご講演者

□ COP8開催結果のご報告
  外務省   気候変動枠組条約室長   岡庭 健様
  経済産業省   地球環境対策室長   関 総一郎様
  環境省   国際対策推進室長   牧谷 邦昭様

□ CDM理事会についてのご報告
  経済産業省   大臣官房参事官(環境担当)   関 成孝様

□ 研究者によるCOP8報告
  IGES上席客員研究員/GISPRI客員研究員   松尾 直樹(Climate Experts代表)

□ 質疑応答
  記のご報告者および
  林野庁   海外林業協力室課長補佐   佐藤 英章様

各ご講演者のご発表要旨

□ 外務省 岡庭室長
   COP8では、京都メカニズムに関して合意されていなかった事項のなかで、排出量などの報告・審査のガイドライン採択やCOP9での最終決定に向けたCDM吸収源活動のスケジュール決定などの進展があった他、途上国を支援する仕組みの実施、2013年以降の交渉プロセスに関する議論が行われた。

 「デリー宣言」については、次期約束期間の話をしたい先進国とCOP7まで十分議論できなかった途上国支援事項の議論を進めたい途上国という位置付け。鈴木環境大臣は閣僚会合における第一回ラウンドテーブルにおいてキーノートスピーカーの1人として、京都議定書の早期発効地球規模の参加条約の究極目標達成のために2013年以降のプロセスの開始を主張した。また「デリー宣言」採択の過程で日本として将来の行動強化の為の検討開始途上国を含む各国の緩和措置(排出削減)についてCOPで検討を実施、などを主張した。一方、途上国は、先進国の排出削減義務の履行途上国への新たなコミットメントの拒否途上国支援などの合意事項の履行を訴えるとともに、議長国インドのバジパイ首相は途上国と先進国の一人あたり排出量の相違を挙げ「途上国にコミットメントを課すのは見当違い」と発言した。

 交渉の過程で宣言を採択できない可能性もあったが、国際的に気候変動を議論するCOPで宣言を出せたこと自体は評価できる。「デリー宣言」の文言の多くは気候変動枠組条約やヨハネスブルグサミットの書き写しに過ぎないが、前文に「全締約国の緩和活動に注目」及びパラ(f)の「緩和及び適応に関する非公式協議開始」といった排出削減に関する日本の主張を盛り込むことができた。CDMなどの排出削減活動を真剣に考えている途上国は決して少なくなく、これを正当に評価することが将来の話につながっていくという意味で小さな一歩であると評価する。

 京都議定書の批准状況は、11月14日現在98ヶ国締結、その内先進国(Annex I国)が26ヶ国でその1990年のCO2排出量は先進国全体の37.4%※。COP期間中の批准はなかったが、COP8後に韓国が批准。尚、ニュージーランドは国内で批准の手続きが進行中で2〜3週間以内に批准の見通し。ロシアは10月の川口外相と副大統領の会談で来年の春会期に批准の検討を行うと言及。またカナダは国内実施計画を議会で検討中であるが、カナダ憲法では京都議定書批准において議会承認は必ずしも必要ではなく「政治的な動き」であると認識している。

 現在の「どういう方向に交渉を持っていくか」という状況下で、日本政府としてはすべての国が参加する仕組み作りに向けて引き続き努力していきたい。

  ※ 京都議定書発効の条件は「55%以上」
気候変動枠組条約締約国会議第8回会合(COP8)「概要と評価」(日本政府代表団)
「デリー閣僚宣言」(日本政府仮訳 ・ 原文−PDF 347K

□ 経済産業省 関室長
   京都メカニズムの柔軟性や取引の安定性確保という点で注目している「京都メカニズム資格回復の迅速な手続き」のガイドラインに関する議論が行われた。COP8まで日本−12週間以内、EU−20週間以内の手続き完了を主張したが、結局「17週間以内」で決着した。また、排出枠やクレジットを管理する「登録簿」を各国が準備する際の技術基準の議論においては、基本的な「general design requirement」が合意されたものの、データフォーマットやプロトコルといった事項は今後引き続き議論される。日本政府はすでに登録簿開発事業者を指定し専門家をCOP8直前のワークショップに派遣した。すでに開発を行っている英国を除いて各国の登録簿に関する技術的な蓄積は高くないため、英国あるいは日本のプロトコル等が採用される可能性もある。

 米国への天然ガスなどの「クリーナーエネルギー」輸出分をクレジットとして発行し京都議定書目標達成に使用したいという「カナダ提案」についての議論は、カナダが第一約束期間に使用するというよりも「将来に向けてクリーンエネルギーの貿易に果たす役割を研究したい」とその主張を和らげたが、合意を得ることができず先送りになった。

 「過去の累積排出量の温暖化への寄与度に基づく削減割当の研究」という「ブラジル提案」の取扱いについては、今までの作業プランが一区切りついたので、今後も本研究を継続するかという議論があった。先進国は慎重な態度を取ったが、途上国の寄与度も含んで「科学的に」研究を継続していくことで合意された。日本としては「将来における寄与度」も研究対象とすべきと主張した。2013年以降の削減目標の交渉でブラジルが提案してくる可能性もあり注目していきたい。

 政策措置(Policies and Measures)の議論においては、代替フロン(HFCs/PFCs)の削減取り組みおいてIPCCとモントリオール議定書の科学的助言機関(TEAP)による共同報告書作成が合意されたが、サウジアラビアからの「産油国への経済的悪影響に関する議論」については合意できずに先送りとなった。

□環境省 牧谷室長
   議定書7条8条ガイドラインにおいては、AAU/RMU/ERU/CERなどのユニット情報の報告時期が決定された。2008年のインベントリの報告時期は実務上の理由で2年後の2010年4月になっているが、電子データであるユニット情報は1年前倒しで2009年4月に提出。第一約束期間後の「調整期間」後のユニット情報提出期限も1年近く前倒しになり2015年7月になった。関室長の言及した「迅速な資格回復手続き」採択とともに実質的に評価できる。

 条約12条に基づき先進国・途上国に義務付けられたNational Communications(NCs)の途上国用ガイドラインの改訂が行われた。2013年以降について議論する上でNCsにおける途上国の情報が基盤になること、そして途上国における緩和活動を正当に評価する必要があるという認識で交渉に臨んだ。交渉において先進国側は「緩和(削減措置)に関する内容充実」途上国側では「負担増への懸念」という対立があったが、ガイドライン4章に緩和プログラムへの言及を盛り込むなどかなり先進国側の意向が入った形で決着したことは評価できる。排出量のデータは2002年のみとなったが今後も継続審議することとなっている。一方、先進国のNCsについては第4次報告の提出期限が京都議定書3条2項の「明らかな前進」の報告時期と同じ2006年1月1日となった。

 植林/再植林のみ認められたシンクCDMについては、「定義及び様式」のCOP9決定向けて率直な意見交換が実施された。定義について89年となっている基準年の議論などまだ収束の方向が見えない。また様式(modalities)においては、火災や伐採といった非永続性という森林特有の問題が議論された。EUはTemporary CER(T-CER)の採用を主張した。このT-CERは発行後5年後に失効し、当該森林のその時点でのCO2蓄積量に応じてT-CERが再発行されるものである。一方、カナダは森林に保険をかけるInsured-CERを提案している。

□ 経済産業省 関参事官
   CDMプロジェクトの進め方はマラケシュ合意で決定したが、このルールをどのようにフォーマットに落していくかがCDM理事会の役割。具体的にはCDMプロジェクトの有効化/検証/認証の手続きや、その手続きを行う運営機関(OE;Operational Entity)の信任手続きなどである。

  OE信任手続きはすでに8月に公表され7社が申請を済ませており、その内5社が日本からの申請である。マラケシュ合意ではCOP8でOE信任を行う予定であったが、7月以降集中的な議論を行いようやくここまできたという印象である。OE信任についてはCOP9までCDM理事会による暫定信任となっており、CDMの早期開始を念頭において来年のできるだけ早い時期にCDM理事会でOE信任を行う予定である。

  OEの専門技術分野は13分野(配布資料参照)。またOE信任は有効化/検証/認証のフェーズごとに審査。審査手順はISOの信任作業に習いオフィスでの審査も活用。またOEは実際の作業を行う支社についても信任を受けなければならないことに留意する必要がある。公表されている信任手続きのガイドラインの用語において、ISO認証手続きにおける用語との不一致を整理する作業を実施しているが、これはルール改正ではなく透明性と分かり易さを高める作業である。

  小規模CDMに関しては「簡略された手続き」が公表されているほか、参考資料としてベースラインの例示が出ているが、詳細は今後Meth-panelで検討されパブコメなどの対象となる。

  COP8で決定することになっていた「ベースラインとモニタリングのガイドライン」については、多岐にわたる分野をすべてトップダウンで決定することの技術的な困難さと、決定することで潜在的な可能性を否定してしまうという懸念から現時点でCDM理事会としてガイドラインを提示するのは適当ではなく、今後の提案の積み上げを通して必要に応じてガイドラインを提示していくのが合理的かつ現実的と判断したもの。

  プロジェクト規模別で登録費用が決定された。登録費用は一般に言われているクレジット費用に対して実施者に著しく負担にならないように配慮されている。CDM登録簿は開発に向けて準備中であるが、2003年にならないと詳細は分からない。

  日本政府は10月16日京都メカニズム活用連絡会において「JI/CDM事業承認手続指針」を公表し、すでにJI/CDMそれぞれ一件づつ申請されている。一方国別登録簿は経済省及び環境省で準備中である。また、ホスト国に対するキャパシティービルディングを民間事業者と協力して促進していきたい。
CDM理事会について(経済産業省 地球環境対策室−PDF 132KB)
共同実施及びクリーン開発メカニズムに係る事業承認に関する指針(京都メカニズム活用連絡会決定)

□ 松尾直樹氏
COP8交渉の「行間」をどう読むべきか?−新たな動きの胎動?(PDF 548K)
COP8報告 −京都ルール決定後の方向性について−(PDF 476K)
質疑応答(括弧内は回答者)

□ 国際交渉・海外動向
  Annex IとAnnex IIの違い
Annex IはOECD諸国+旧東欧圏で排出削減の義務を負う国。Annex IIはOECD諸国で途上国支援などを行う「ドナー国」。OECD諸国ではトルコ、韓国、メキシコは対象外されている。(岡庭室長)

COP/MOP1の開催方法
議定書13条9項で「COP/MOP1はCOPと共に開催」となっているが、「共に開催」する方法が決まっていない。途上国支援問題など条約と議定書で共通する議題の取扱いなど詳細は来年6月の補助機関会合で検討される。議定書を批准しない米国は、COP/MOPでは投票権のないオブザーバーとして参加できる(岡庭室長)。

将来のルール作りにおける日本政府の基本方針は
各国の排出実績を提示した上で交渉を進めていくよう働きかける。一方途上国の交渉における基本的なキャパシティー欠如が深刻な問題であり、この点でのキャパシティービルディングも重要であると認識している(岡庭室長)。

京都議定書の発効時期
(発効の鍵を握る)ロシアの批准の目安は、2003年6月末が会期の「議会の春会期」及び9月のロシアで開催される環境国際会議(岡庭室長)。

COP8における補完性の議論
COP8では特に議論なし(関室長)。

再生可能エネルギーシステムや省エネ機器輸出によるクレジット獲得の可能性
ドイツがブラジルでバイオマス燃料普及のために自動車輸出支援に基づくクレジット獲得契約をしている事例もあり、相手国との合意があればJI/CDMとしてクレジットを獲得する可能性はある(関室長)。

途上国のNCs改善点
緩和プログラムの他は、インベントリや適応プログラムに関する事項及び条約約束達成のための章の内容充実(牧谷室長)。

米国の動向と今後
「気候変動問題に対して国連に基づく対応と地球規模の参加」(2001年6月)、「条約の“究極目標”にコミット」(2002年2月)や「経済成長がなければ温暖化対策はできない」といった基本的な米国政府の意向は変化ない。しかしCOP8での動向を含めて、交渉における方針の明確化と建設的な対応を日本政府として引き続き求めていく(岡庭室長)。

□ CDM理事会
  議定書未批准の途上国からCERを獲得できるのか、また途上国は排出量取引をするためにCERを保有できるのか
CER獲得は議定書の批准国のみ。「途上国の排出削減を先進国が支援した場合、先進国はその排出削減分を自国の約束達成に使用することができる」というCDMの精神から言うと、途上国の保有/売買は認められないと考えられるが、CDM登録簿に途上国は口座を持つことができることもありこの点は明確なルールはない(関参事官)。

CDMにおける2国間協議の進捗状況
東南アジア・南アジアでキャパビルやNEDOが調査事業を行っているが、CDM実施にあたってMOUなどの2国間協定は必須ではない。CDMは民間ベースの活動なので相手方との契約の中にリスク回避方法を入れておくということに尽きる(関参事官)。

DOE(Designated OE)と事業者の紛争処理方法
CDM理事会を通して発行されたCERがDOEの不備で過発行にされた場合は、当該DOEが補償する。また申請者とDOE間で見解の相違がある場合はそもそもCDMとして登録されない(関参事官)。

OE信任プロセス
来年早々にCDM理事会で信任するように進んでいる(関参事官)。

ベースラインにおける経済的追加性(additionality)に関する議論
経済的(資金的)追加性についてはコストなど企業秘密に係わる内容公表の懸念もあるが、一方で経済的なバリアが最も説明しやすい場合もある。この観点からバリアにオプションを残したということでむしろ自由度が広がったという認識(関参事官)。

OE候補によるwittinessに使用されたプロジェクトの取扱い
当該OEが信任された時点でCDM事業として有効化されると想像(関参事官)。

□ 吸収源(CDMを含む)活動
  CDM吸収源活動によるCERが「失効」した場合だれが補填するのか
EUの主張するT-CERでは、当該ユニットを約束達成に使用した国が他のユニットを償却口座に移転して「補填」。Insured-CERでは保険会社が補填する(佐藤課長補佐)。

国内森林管理における吸収量の割当方法
技術的には国内で計測すべき地域を決めてマクロに算定する方法をとると思われる。第一約束期間は「伐採=デビット」になるので間伐を促進すれば排出になるなどの問題もあり、割当をするのが合理的かどうか等十分検討する必要がある(林野庁  佐藤課長補佐)。

森林を伐採したときの算定方法などは
マクロで排出量を算定する。第二約束期間以降は伐採した木材のCO2固定量について議論する予定(佐藤課長補佐)。

ヒマワリに活用した取り組みの吸収源活動としての取扱い
ヒマワリは「草本」となり植林/森林経営ではなく3条4項の「植生回復(revagitation)」活動である。また、ヒマワリをバイオマス燃料として活用する場合、化石燃料の代替として「排出削減活動」の対象となる(佐藤課長補佐)。

世界の森林面積減少への取り組み
途上国の中には「持続可能な森林経営」とCDMを結びつけたいと考えており、CDMは一つの選択肢として有効である(佐藤課長補佐)。

□ 国内対策
  日本の京都メカニズムの使用割合は
新大綱においては1.6%であるが、自主行動計画に京都メカニズムを使用するとすれば「エネルギー起源のCO2削減0%」にも含まれる(関室長)。

CER/ERUの国による買い上げ制度については
選択肢としては一定価格で買い上げ市場価格で買い上げ召し上げがあるが、現在何も決まっていない。シンクCERの価値が低くなる懸念がある(佐藤課長補佐)。

国内排出量取引への見解
英国ではすでに導入されEUでも検討中である。国内では需要はあっても供給は少ないので京都ユニットとしての「正貨」を取引する方が現実的。その点で国別登録簿ができCERを企業が保有すれば国内で売買される可能性がある。国内排出量取引を行う動機付けも未決定であり、第2ステップ以降の議論の対象であるに過ぎない(関室長)。

代替フロンにおける国内対策
国内では自主行動計画に基づき95年比で対策なしで5%増のところを2%増の押さえる。IPCC/TEAPの報告書の公表予定は未定(関室長)。

セミナー参考資料

COP8/SB17参加報告書(GISPRI−PDF 648K)
CDM理事会報告書
(「小規模CDMの簡素化された方法及び手続き」GISPRI仮訳−PDF 217K ・ 原文−PDF 449K
CDM理事会小規模CDMパネル答申「小規模CDMベースライン/モニタリング方法論」
GISPRI仮訳−PDFファイル324K ・ 原文−PDF 64K
ENB/COP8サマリー
GISPRI/IGES仮訳−PDF 414K ・ 原文

以上
(文責 高橋 浩之)
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